遠い宇宙の彼方にある火星への移住は、人類の長年の夢です。もし私たちが火星に家を建て、生活を始めるとしたら、一体どれくらいの費用がかかるのでしょうか。想像をはるかに超えるその費用について、段階を追って見ていきましょう。
火星までの旅路にかかる費用
まず、火星へ向かうためには、人や物資を地球から宇宙へ送り出す費用が必要です。過去のデータを見ると、荷物の重量に応じて輸送費用が大きく異なります。
たとえば、2011年に火星探査車キュリオシティ・ローバーが送られた際には、1ポンド(約453g)あたり90万ドル(約9000万円)もの費用がかかりました。一方、NASAのスペースシャトルでは1ポンドあたり1万ドル(約100万円)、そしてイーロン・マスク氏のスペースX社のファルコン9ロケットでは、さらに安価な1ポンドあたり3000ドル(約30万円)とされています。
仮に45kgの小柄な人をNASAのスペースシャトルで火星に送るとすると、輸送費だけで約1000万円かかる計算です。地球から火星までの距離は約4億200万km(往復の場合)と非常に遠く、また火星の公転軌道が楕円形のため、常に同じ距離ではありません。
この膨大な輸送コストを含め、各機関が試算した火星への渡航費は、想像を絶する金額になります。NASAが約1000億ドル(約10兆円)、スペースXが約360億ドル(約3兆6000億円)、そして火星協会(The Mars Society)が約300億ドル(約3兆円)と見積もっています。最も安価な見積もりでも、地球を船で250万周できるほどの金額です。
火星での住まいと食料
火星に到着しても、すぐに生活できるわけではありません。まず、居住するためのシェルターが必要です。120平方メートルの広さを持つシェルターを建設する場合、NASAの見積もりでは約2億6700万ドル(約267億円)、スペースXでは約1億5000万ドル(約150億円)とされています。NASAの場合、1平方メートルあたり約2億2000万円という驚くべき費用になります。
次に、生命維持に不可欠な食料と水です。大人が一日に必要とするのは約3.7リットルの水と、1200〜1500キロカロリーの食べ物とされています。これを地球から継続的に運搬すると、年間でNASAは約4200万ドル(約42億円)、スペースXは約1300万ドル(約13億円)もの費用がかかります。これは、一ヶ月の食費だけでも約1億円に相当します。
こうした費用を削減するため、火星での自給自足も検討されています。火星には巨大な氷の塊が存在するため、これを利用して水を生成する計画です。氷から水を作り出す機械を運び、稼働させるための費用は、NASAで約1540万ドル(約15億4000万円)、スペースXで約460万ドル(約4億6000万円)と試算されています。
さらに、耕作に必要な機械や作物の種子、そしてシェルターの機能を維持するための費用も加わります。これにはNASAが約209億ドル(約2兆900億円)、スペースXが約117億5000万ドル(約1兆1750億円)を見込んでいます。約4700平方メートルの広さがあれば十分な食料が収穫できるとされ、植物が光合成によって酸素を生成するというメリットもあります。初期費用は高額ですが、長期的に見れば自給自足はコスト効率が良いと考えられています。
遠い地球とのつながり
火星での生活においても、地球との通信は重要です。火星から通信を行うには、NASAの「2001マーズ・オデッセイ」などの通信システムを利用する必要があります。
通信費用は非常に高く、例えば電話で1分会話したり、75キロバイトのメールを送ったりするのに、1回あたり209.71ドル(約2万円)かかると見積もられています。参考として、YouTubeで特定の動画(Gangnam Style 1080p)を視聴しようとすると、37,244ドル(約372万円)もの費用が発生すると言われています。
火星生活の総費用と考察
これまでの費用を合計すると、火星に一人が住むためにかかる総額は、NASAの見積もりで約1210億ドル(約12兆1000億円)、スペースXの見積もりで約480億ドル(約4兆8000億円)という莫大な金額になります。
アメリカ合衆国の年間国家予算が約7110億ドル(約71兆1000億円)であることと比較すると、その予算を全て火星移住に充てたとしても、スペースXの見積もりでようやく15人程度が住める計算になります。
火星への移住は、地球での生活とは比べ物にならないほどの費用と技術が求められる、壮大な挑戦です。しかし、将来的に技術がさらに進歩し、宇宙輸送のコストが劇的に下がれば、いつか火星に住むことがより現実的なものになるかもしれません。