地球の表面の多くを占める海には、たくさんの塩分が溶けています。しかし、海の深さによって塩分濃度がどのように変化するのか、詳しいことはあまり知られていません。海水の塩分濃度は、地球全体の気候や海の生物たちに深く関わっています。ここでは、海の深さが塩分濃度に与える影響と、その環境で生きる深海生物たちの驚くべき適応能力について見ていきましょう。
海水の塩分濃度、表層と深海での違い
表層の塩分濃度に影響するもの
地球上の海の平均的な塩分濃度は、約3.5%だと言われています。これは、海水1キログラム中に約35グラムの塩分が溶けていることを意味します。しかし、この「平均」という言葉が示す通り、海の塩分濃度は場所や条件によって微妙に異なります。例えば、赤道付近では太陽の熱で水が蒸発しやすいため塩分濃度が高めになる傾向があります。逆に、極地では氷が溶けて淡水が供給されるため、海の表面近く(表層)の塩分濃度が一時的に薄くなることがあります。
南極の氷が大量に溶け出すようなことがあれば、その周りの海水は一時的に塩分濃度が下がる可能性があります。このように、陸地からの淡水(塩分を含まない水)の流入や、雨、蒸発、氷の形成や融解といった自然現象が、特に海の表面近くの塩分濃度に影響を与えているのです。実際、表層の海水では、塩分濃度は3.3%から3.7%程度と、ある程度の幅があります。
深海で安定する塩分濃度
では、海の表面からずっと深い場所、つまり深海では、塩分濃度はどのように変化するのでしょうか。私たちが想像しがちなのは、水圧が増える深海では、何らかの理由で塩分濃度も大きく変わるのではないか、ということです。しかし、実際の観測データを見ると、意外な事実が浮かび上がってきます。
海の表面近くの塩分濃度には幅があるのに対し、さらに深く潜っていくと、ある深さからは塩分濃度がほぼ一定の約3.5%に落ち着くことがわかっています。
具体的に、深度と塩分濃度の関係を示すグラフで見てみましょう。

これらのグラフが示すように、深海では水圧が非常に高くなるにもかかわらず、塩分濃度は安定した値を示します。これは、深層の海水は表層のように外部からの影響を受けにくく、地球規模の大きな海洋循環(深層循環)によって、比較的均一な塩分濃度の水がゆっくりと移動しているためと考えられています。この安定した塩分濃度は、深海の生態系を支える上で非常に重要な要素となっています。
深海生物の驚異的な適応とその限界
高水圧に耐える体の仕組み
海水の塩分濃度が深い場所で安定している一方で、深海の環境は水圧の面で極めて過酷です。水深1000メートルの場所では、地上での気圧(大気の圧力)の約100倍もの水圧がかかります。この途方もない圧力の中で、深海生物たちはどのようにして潰れずに生きているのでしょうか。
その秘密は、深海生物の体のつくりにあります。彼らは、体の中の圧力を周囲の海水と同じ圧力に保つことができるため、高水圧でも体が潰れることはありません。まるで、風船が水中で外の圧力と同じだけ内側からも押されることで形を保つように、深海生物の体も内外の圧力が均衡している(つり合っている)のです。
環境変化への脆弱性
しかし、この適応力が、彼らを深海から引き上げる際に問題を引き起こすことがあります。深海から急速に海面へ引き上げられると、体内の圧力が外の海水圧よりもはるかに高くなります。この急激な圧力差に体が耐えられず、体組織が膨張し、最悪の場合、破裂してしまうことがあります。水深の浅い場所に生息する魚が、急激に引き上げられると目が飛び出したりする現象も、これと同じ原理で起こるものです。深海生物の体は、深海の特殊な環境に見事に適応しているからこそ、その環境から離れると脆弱になってしまうのです。
まとめ
海の塩分濃度は、場所や深さによって変化しますが、特に深海では約3.5%という安定した値を示します。これは、海の複雑な物理的・化学的プロセスと、地球規模の海洋循環が深く関わっている結果です。そして、この過酷な深海環境に適応し、高水圧の下で生きていける深海生物たちの存在は、まさに生命の多様性と強さを示しています。彼らの体は周囲の圧力と均衡を保つことで潰れずに活動できますが、それは同時に、深海という特定の環境に特化した適応の形でもあります。
ちなみに、深海には、まるでクリスタルでできたかのような透明な体を持つクラゲや、自ら光を放つ魚など、想像を絶するユニークな生物がたくさん生息しています。彼らの生態を探ることは、地球生命の進化の歴史を解き明かす鍵にもなるかもしれません。