日常生活でよく耳にする「5秒ルール」。床に食べ物を落としても、すぐに拾えば大丈夫、というこの慣習には、本当に科学的な根拠があるのでしょうか?アストン大学の研究チームが、この素朴な疑問に真正面から挑みました。彼らのユニークな研究から、食品が床に落ちた際の細菌の移行について、興味深い事実が明らかになっています。

「5秒ルール」とは何か?

私たちにとって身近な「5秒ルール」は、食品を床に落としてしまっても、ごく短い時間であれば細菌が付着するリスクは低いという考え方です。このルールは、単なる言い伝えとして広まっているだけでなく、実際に多くの人が実践しているかもしれません。しかし、本当にその時間内に拾い上げれば、食品は安全なのでしょうか。今回ご紹介する研究は、このルールに科学的な光を当て、その真偽を探っています。

実験で検証された要素

アストン大学のアンソニー教授率いる微生物研究チームは、この疑問を解明するため、綿密な実験を設計しています。彼らは、細菌の移行に影響を与える可能性のある複数の要素を検証しました。

実験では、まず4種類の食品を検体として選びました。具体的には、トースト、パスタ、ビスケット、そして粘着性のあるスイーツです。これらの食品を、ラミネートフローリング、タイル、カーペットという3種類の床に、それぞれ3秒から30秒間接触させています。そして、食品にどれくらいの細菌が移行したかを調べました。検出対象となった細菌は、食中毒の原因となる代表的な種類である大腸菌(E.coli)と黄色ブドウ球菌(S.aureus)です。

菌の移行を左右する要因

研究の結果、食品に細菌が移行する量には、いくつかの重要な要因が影響していることが判明しています。

床の種類と安全性

最も興味深い発見の一つは、床の種類が細菌の移行に大きく関わる点です。研究によると、カーペットは食品に細菌が移行する可能性が最も低いことが示されました。これは、カーペットの繊維が食品との接触面積を減らすことで、細菌の付着を抑制している可能性が考えられます。一方で、ラミネートフローリングやタイルといった硬い表面は、比較的細菌が移行しやすい傾向が見られます。

食品の性質とリスク

食品の性質も、細菌移行の重要な要因です。パスタや湿ったお菓子のような、水分を多く含む粘着性の高い食品は、細菌が移行する可能性が最も高いことが示されています。これらの食品は表面が細菌を捕まえやすく、また水分が細菌の増殖を助ける可能性があります。対照的に、トーストやビスケットのような乾燥した食品からは、細菌が移行しにくいことが明らかになりました。これは、食品表面の水分量が細菌の付着に与える影響の大きさを物語っています。

接地時間の影響

そして、「5秒ルール」の核心である接地時間についても検証されています。研究結果によると、食品を落としてから5秒以内に拾い上げた場合、細菌の移行はほとんど見られないものの、それ以上の時間、例えば30秒といった長い時間接触していると、食品上の細菌数が急速に増加する傾向が示されています。

ただし、乾燥した食品であるトーストやビスケット、そしてカーペットの床からは、接地時間に関わらずほとんど細菌が検出されないという結果も出ています。これは、食品や床の特性が、接地時間以上に細菌移行の主要な決定要因となる場合があることを示唆しています。

SOURCE:The five-second rule DOES exist: Eating food that’s been dropped on the floor isn’t always dangerous – especially if it’s toast

外国語訳:The five-second rule DOES exist: Eating food that’s been dropped on the floor isn’t always dangerous – especially if it’s toast

日本語訳:5秒ルールは確かに存在する:床に落ちた食べ物を食べても常に危険ではない、特にトーストの場合

研究から見えてきたことと注意点

この研究は、私たちが漠然と信じていた「5秒ルール」に、ある程度の科学的根拠があることを示しています。しかし、その有効性は、落とした食品の種類や床の素材といった条件に大きく左右される点に注意が必要です。湿った食品をカーペットではない床に落とした場合は、たとえ数秒であってもリスクが高まる可能性があります。

また、この研究はイングランドで行われたものであり、屋内で靴を履く文化が一般的な環境での調査です。日本のように屋内で靴を脱ぐ習慣がある国では、床の清潔度が異なるため、今回示された結果がそのまま当てはまるとは限りません。あくまで一つの参考情報として捉えるのが賢明でしょう。

身近な疑問と科学の視点

私たちの日常生活には、今回取り上げた「5秒ルール」のように、科学の光を当てることで新たな発見がある身近な疑問が数多く存在します。アストン大学の研究は、そんな日常のささいな行動にも、微生物学的な視点から興味深い洞察を与えてくれます。

もし次に食べ物をうっかり落としてしまった際には、この研究の結果を思い出し、その状況がどうだったかを考えてみてはいかがでしょうか。科学的な知識は、日々の選択をより賢明にする手助けとなることでしょう。